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2018年5月28日月曜日

平成30年度 第1回研修会 (報告)


 日時 平成30年5月25日(金)13:00〜15:50
 会場 宮崎県立美術館

第1回研修会では、講演と視察を行いました。講演は、大分県立歴史博物館の稗田優生学芸員より、「文化財の予防保存」というテーマで講演をいただきました。視察では、宮崎県立美術館の大野博文主査によるコレクション展「第1期」の解説と案内をいただきました。

 稗田氏による講演は、実際の取り組みに基づいており、具体的で、多くの示唆に富む内容でした。主な講演内容を以下にまとめます。

・文化財が壊れてから修理しようとすると費用がかかり、修理する範囲や対処も大きくなる。それに対して、傷みが無い状態から保存し、傷みが進まないように、文化財が劣化する要因を防いでいこうとする“予防保存”という考え方がある。結果的に修理が必要となっても、軽微な応急処置で終わる場合もある。

・文化財が劣化する要因は、温度や湿気、光、空気、生物、振動や衝撃、災害、管理上の不注意などである。この要因を取り除く環境作りが必要となる。短期や瞬間的な作用には防災や、防犯、輸送や梱包での取扱いの注意など、優先的に取り組まれている。しかし、温度や湿度、光、虫害や空気汚染などは劣化や損傷が目に見えるまでに時間がかかる。つまり、中長期的な作用に対しては、温湿度の変動の抑制、照明の制御、空気環境の保全、生物被害の防止など、日常の管理が必要となる。

・温度と湿度は、文化財の材質に応じた値がある。また、大事なことは急激な変化が無いように、安定した温湿度に管理されなければならない。空気の循環や温湿度計の位置なども工夫が必要となる。また、収蔵庫全体の管理が難しい場合は、桐箱や保存箱などで個別に管理する方法も効果的である。

・生物被害の防止では、保管環境の整備や薬剤燻蒸など、複数の防除法を合理的に組み合わせるIPM(総合的有害生物管理:Integrated Pest Management)という考え方がある。虫が来ないような保管環境を整備した上で、必要があれば薬剤による殺虫処理を行い、それでも虫が消えなければ施設等の薬剤処理を行うといった、複数の防除方法を組み合わせて段階的に行い、100%の防除を目指す。それぞれの施設の特徴や状況に合わせたIPMの方法があると思われる。文化財害虫の例:ヒメマルカツオブシムシ、ヒラタチャタテ、タバコシバンムシ。クモは文化財害虫では無いが、クモが食べる虫が存在する可能性を示している。虫害を防ぐためにも、侵入防止、清掃、低温低湿度を保つなど保管環境の整備が必要となる。日々のチェックも重要となる。

・カビの発生条件を知り、発生を防ぐために、温度を一定に保ち、湿度は60%以下で、カビの養分(手垢)に気をつけなければならない。カビが発生した場合は、可能な場合は材質に応じた処置をしてクリーニングをする。それ以外は専門家に相談するようにする。また、カビは人体にかなりの影響を及ぼすので、マスクや手袋や髪の毛を守るなど注意が必要である。

・文化財を守るための日常管理として、点検(定期的に目で確認を)、記録(資料の記録だけで無く、点検日や清掃の履歴も記録を)が大切で、小さな変化を見過ごさない事が必要である。

・災害(地震、火山噴火、放射能、水害)への対処も日頃から考えておかなければならない。

・大分県立歴史博物館では、館内の温湿度と害虫の管理や館外の動植物の把握を行っている。被災文化財のレスキューも行っており、必要な資材の管理では職員で情報共有を行っている。また、近くの魚市場の冷凍庫を文化財の緊急の避難先とできるように協力を得ている。